クルミを割ったことのない日々

思いついたことを好きなだけ

もう1人いる

今週のお題「ちょっとコワい話」

 

不思議な体験は何度かあるが、夢うつつだったので「寝ぼけてたんだ」と言われればそれまでだ。
ただ、1度だけ日中にどうにも説明が付かなかった出来事がある。

 

コンビニ風の小売店で雇われ店長として働いていた私は、その日バイトの寺田さん(仮名)と2人で店に立っていた。午前中でまだお客さんもほとんど来ないので、私は売り場に寺田さんを残しバックヤードで作業をすることにした。

作業台の前に立って下を向いた状態で作業をしていると、作業台の向こう側を足早に寺田さんが通り過ぎるのが見えた。
(トイレかな?)
トイレはバックヤードを抜けた裏手にあり、すぐに戻ってこないのでそう思った。

「トイレに行くならひと声かけてほしい」と戻って来たらお願いしなきゃ、と考えながら作業を続けていたが、少し待っても寺田さんが戻る様子がない。

お客さんが来ていないか心配になり、作業をやめて売り場に戻った。
そこには寺田さんがいた。

 

思わず「え?」と声を出してしまった。
寺田さんはキョトンとした表情で私の次の言葉を待っている様だった。
「さっきバックヤードに来てトイレの方行ったよね?」と、知らぬ間に戻ったのだと思いつつ念のため聞いた。
「いえ、ずっとここにいましたよ?」
「じゃあ、誰か他に来た?他のバイトの人とか」
「誰も。今日のバイトは私だけですし……」
私の意味のわからない問いかけに戸惑っているのがわかり、さっきの出来事を話した。


たしかに私は、顔を上げて通り過ぎた人をきちんと見てはいなかった。しかし、その店の特徴的な色合いの制服が見えたので寺田さんだと思っていた。制服を着た誰かの姿を見たのは確かなので、あるいは何かしらごまかしの嘘をつかれている?と疑いもした。
しかし相手も同様で、
「えっ、なんですか?やめてくださいよ〜。……ホントに?」
と、私の話をいぶかしげに聞いている内に真面目に事実の説明をしているとわかったようで、わかりやすく青ざめていった。

お互いの話が本当だとすると認めたくない仮説が浮かび上がってくるので、ふたりとも顔は引きつり少しの間絶句していた。

 

「やだ……怖い」
寺田さんが本格的に怯え出したので、私は店長としての立場をはたと思い出した。
「あ、見間違いかも!多分違うなんかだ!怖がらせてゴメンね!忘れて!」

私の無理やりな笑顔と急ハンドルの全否定でその話は終わらせてしまったが、後味はかなり悪かったと思う。

 

もしそれが雨の降る夜の出来事なら立ち直るのが難しかっただろうが、天気が悪くもない昼前だったのでまだ救われた。

それでも未だになんだったんだろうと思い返し、あの時私が顔を上げていたらそこに誰を見たのだろうと考えると背筋が寒くなる。

そこにいたもう1人の誰か。それはもしかしたらの寺田さんだったのかもしれないし、他の誰かかもしれない。

でも1番怖いのは、それがもし「自分」だったら……。