クルミを割ったことのない日々

思いついたことを好きなだけ

転校生

私が小学6年生の時、担任の先生に「東京からの転校生が来る」と伝えられた。

ただでさえ「転校生」というのは異様な期待感に満ちるものだが、田舎に住む我々にとって「東京の」といったらなおさら、だ。

 

しかし何日経ってもその子が登校することはなく、転校生の事も忘れかけたある日の休み時間、教室に見知らぬ女の子が現れた。

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明らかに浮くくらい大人っぽくて都会的な美人だったので我々は気後れし、何者かもわからず戸惑うばかり。

いつの間にか置かれていた教室の1番後ろの席に座る彼女を、少し距離を取って見つめるしかできなかった。

期待と不安の入り混じったその時間は、ほんの5分くらいだったろうか。するとその子は先生と教室を出ていってしまい、後からその子が転校生である事を知らされた。

 

結局そのまま2度と登校して来る事もなく、名前もわからなかった。

卒業式にクラスの一員として知らない名前が読み上げられたことで、転校生の存在を再確認できたくらいだった。

 

きっとあの子がクラスメイトになったら、女子も男子もみんな仲良くなりたがったろう。

けれども、あの子はそれができない子だった。どんな理由かはわからないけれど。

新しい場所で人間関係を構築するのって、体力がいる。何でもない人もいるんだろうけど、私は苦手なのであの子もそうだったのかもしれない。

でも小6の私は、自分達と仲良くなる事を拒絶されたようで少し寂しく思った。

 

この出来事はとても印象的で、いつもより静かになった休み時間の光景や、誰も座らない教室の1番後ろの席が、頭にずっと残っている。

だから自分が転校生側の立場になった時こそ、あの子への気持ちを思い出したいなと思う。

つい忘れて心を固くガードしてしまうから、誰かとようやく仲良くなると「初めの印象と違う」とよく言われる。

はじめから自然に振る舞えるようになりたいのに、そういうのって大人になっても意識しないとなかなか直らない。

大人になると余計に難しいかもしれない。

 

 あの子は今、どんな大人になっているんだろう。いつかどこかですれ違っていたりするのかな。