映画『男はつらいよ』の50作目が製作されるとのニュース。
寅さんがフルCGだったらやだなぁなんてのは杞憂だろうけど、どうなるのか楽しみと心配の半々。
というのも、最近たまたま『男はつらいよ』シリーズをよく観ていたのでそれなりに愛着が湧いていたところなのだ。
アマゾンプライムで全作配信しているので、私は1作目から全てではなくざっくりと20作程度観ているところで後年の作品は未見という状況。ということを予めご了承ください。
まず「寅さん」について、よく知らない人には「ただの陽気なおじちゃん」という印象かもしれない。
しかし一作でも観ればすぐにわかるが、寅さんはかなり面倒くさくて厄介でいい加減な男だ。
毎度毎度いい歳してすぐヘソを曲げて家族を困らせるし、美人に出会えばすぐ惚れて恋わずらいで寝込んだり、振られればいじけて旅に出る。そんな愚行を見ていると、寅さんのおいちゃんと口を揃えてため息まじりに「バカだねぇ」と呆れてしまう。
さくら(寅さんの妹)は寅を甘やかしすぎだよ、あーもータコ社長もまた余計なこと言って、おばちゃんはハッキリ言ってやったらいいんだよ、ね、おいちゃんだってそんな気に病むことないよ。
なんてやじりながら観る。
ずっとその繰り返し。
もちろん良いところもたくさんある。でも冷静に勘定すれば結局平均よりマイナスになるくらい寅はどうしようもない。本来ならハブに噛まれて死んで終わる男の話*1だ。
だからちょっと寅さんをかじった人の中には「なぜ寅さんが人気なんだ。クズで最低じゃないか。」という人もいる。
まぁそう思うのもごもっとも。
でもそれならなぜ我々は寅さんが憎めないのだろう。
ひとつは演じている渥美清さんの魅力によるところが大きい。
渥さんは独特の愛嬌があるのはもちろん清潔感があるのがいい。寅はバカだけど渥美さんには知性を感じる。そこが寅さんというキャラクターを絶妙なバランスに仕上げていて、肩をすくめながらはにかんだ笑顔は四角いキツネみたいで不思議とかわいく思えてくる。
そして寅の言動はまるで子供みたいに打算がないからそのあまりの不器用さに「しょうがないね」となってしまう。マドンナ(作品毎に出てくる相手役女性)に振られてあの小さな瞳に愁いをたたえていると、さくらのように「バカね」と涙を滲ませながら慰めたくなる。
それにさ、いつもまた会いに行くんだよね。振られた相手でもただ会いに行ってちょっと様子見て帰るわけ。山奥でも雪国でもわざわざ、いつもの格好でいつもの明るい寅さんで。相手は「また会いに来てくれた、やっぱり寅さんは寅さんだ」って安心したように喜ぶ。それが寅さんなりのけじめのつけ方なのかもしれないけど、なんかいじらしくていいじゃない。そんなところがどうしても憎めないとこかなぁ。
最近観た中でのおすすめをいくつか。
第1作『男はつらいよ』
色々観てから改めて第1作を観るとかしこぶってる寅が余計腹立つし色々どうかしすぎていて笑うしかない。嫌いだって人はこれだけ観てる可能性ある。
初心者向けじゃないかもしれないが問題作であり名作だと思うのでいずれかのタイミングで観てほしい。
黒澤映画でおなじみの志村喬の熱演が映画の格を上げている。
第17作『寅次郎夕焼け小焼け』
特に好きなところは、マドンナのぼたんを泣かせたやつをやっつけようと行き先もわからないまま家を飛び出していくシーン。
バカだけど、あんな風に自分のために駆け出してくれたら惚れちゃうよ。
そして行き先がわからずそっと戻ってきてこちらを外から見てる寅さんももうバカでかわいい。
この回はぼたんとの関係性も好き。
第20作『寅次郎頑張れ!』
これは寅さんがメインではないが、思わぬ展開があって笑った。
第15作『寅次郎相合い傘』
第25作『寅次郎ハイビスカスの花』
それから何と言っても伝説のマドンナ「リリー」の回はどれも味わい深い。
リリーはシリーズ中最も寅さんが結婚する可能性のあったマドンナと言われている。
(リリーが出てくるのは他に第11作と第49作がある。第49作はまだ観ていない)
再登場の上記2作は恋愛ドラマとしてとても心を動かされた。
この2人結婚すればいいのにとも思ったり、こりゃ結婚してもうまくいかないよとも思ったり、それでもただそばにいてもいいんじゃないかと思ったり。寅さんの気持ちもリリーの気持ちもさくらの気持ちも複雑で、観ているこちらも正解を導けない。これが人生だよなぁなんて思ったりして。
そしてこの2作で寅さんの1番良いところもダメなところも見えて好きになる。
『男はつらいよ』はわかってても楽しめる最高の落語劇だ。
笑って、時には泣いて、恋愛ものとしてだって悪くない。
50作目を前に、未見の方はこの機会に。
*1:テレビ版の結末